《レベル:初級者》
前回は「球」と「円柱」を使って人間のラフを描いてみました。
ただ、これは単純化した形で人間の体を描いただけです。正しい人の体になっているかどうかは、ラフを描く人が人体の構造を正しく知っているかどうかが重要です。
しかし、人間の骨がどういう形でそこにどういう筋肉がついていて…という話をしはじめると急に難しくなり過ぎます。人体構造を知ることは大切なのですが、そこまでいかなくてもある程度正確な人体を描くことは可能です。
それは人間の体の比率やバランスなどの決まりを知ることです。
人体構造について詳しく知らなくても、この決まりさえ知っていれば、ほぼ正しい人体のラフをとって様々なポーズを自由に描くことができるようになるでしょう。
今回は人間の頭部を例として、その決まりをとり入れた描き方を説明していきます。
知るだけで絵を描く力をググっと伸ばすことができます。
※本ブログの記事には広告が表示されます。
今回の授業内容と難易度
今回の授業内容です。
- 人間の頭の形を知る
- 人間の頭部の各パーツの位置とバランスを知る
今回は初級者向けの内容です。
- 難易度 3:★★★☆☆
- 重要度 4:★★★★☆
- 画力向上度 4:★★★★☆
難易度は少し高いですが、絵を描き始めたばかりの初心者の人でも理解しやすいように説明します。
今回は説明が中心ですが、説明図を色々描きますので、みなさんも一緒に説明図を描きながら読んでもらうとより良く理解することができると思います。描くことで脳へのインプットを増やすことは絵を描く力を伸ばすためにとても大切です。
奇妙な人の顔
まず最初にこちらの絵を見て下さい。
人間の頭部を描いたものですが、いろいろ奇妙に感じるところがあると思います。「そうかな…」という人も今回の授業を終えてから見てみるとおかしく見える部分が色々と出て来ると思います。
この絵は人間の頭部にある決まりごとを色々と無視して描いたものです。決まりごとを知らない人が描いた絵ということもできます。
次にこちらの絵はどうでしょうか?
先ほどの絵にくらべてかなり違和感が減ったのではないでしょうか?
2番目の絵は、目や口などの顔のパーツは最初の絵と同じものを使っていますが、人間の頭部にある決まりごとに従ってパーツを配置したものです。このように頭部のパーツの配置についての知識を持っていると、それだけで違和感の少ない絵を描くことができるのです。
では、これから人間の頭部の形と、目、鼻、耳、口といった主要なパーツの配置についてひとつずつ説明していきます。ぜひ、ここで頭部のパーツの配置やバランスの決まりをおぼえてみて下さい。
人間の頭の形を知ろう
人間の頭は「球」でラフをとることが多いですが、完全な球体ではないというところに注意が必要です。それを理解するために、あなたの頭を実際にさわってみましょう。
どうでしょうか?
頭の正面にくらべて側面(横から見た面)の方が幅が広くなっていることに気づいたでしょうか?
頭の形を描く時は、まずこの正面がせまくて、側面が広いという頭の形を知っておくことが大切です。
人間の頭はボールのような球体でなく、側面部分が少し削れたような球体になっています。
正面からの頭部を描く時には少し縦長の楕円形の「球」を意識してラフをとってみると良いでしょう。「球」の下側にあごの部分を描きたす感じにしてもOKです。
では、この正面はせまく、側面はひろいという形を意識して頭部を描いてみます。
少しななめから見た感じで描いてみましょう。まずベースとなる「球」を描きます。「球」が描けたら、ななめに見えるように頭部の「球」の表面に補助線を引きましょう。
補助線は「球」の赤道にあたる位置にヨコの補助線A、さらに顔の向きを決める正面向きのタテの補助線B、側面のタテの補助線Cの3本を引いておきます。
ラフを描く上では、特にこの正面のタテの補助線Bが大切です。頭部の中心を通るこの線は「正中線」と呼ばれ、人間の体の中心を通る「体をタテに二等分する」線になります。人を描く時には必ず描くべき補助線のひとつです。おぼえておいてください。
ベースの「球」が描けたら、先ほどの頭部の形の特徴「正面はせまく、側面はひろい」を思い出してください。この「球」を頭部の形に合うように側面を少しけずります。側面側の補助線Cはけずった形に合わせて図のように描きなおしておいてください。
少し難しいと思いますが、こんな感じです。うまく描けなくても大丈夫です。今は頭部の形やパーツの位置をおぼえることが一番大切です。何度も描けば描けるようになってきます。
「球」の左右をけずって、人間の頭部の形に「球」を変形させたら、こちらをベースに頭部のラフを描きます。少し難しいと思うのでうまく描けなくても大丈夫です。
ラフが描けたら頭の形にあわせて正中線も描きなおしておきましょう。
ラフをもとにベースとなる頭部を完成させます。
ベースとなる頭部が完成したら、ここに目や口などのパーツを正しいパーツ配置のルールにしたがって描きくわえていきます。うまく描けてなくてもOKです。今回は正しいパーツの配置をおぼえることが目標です。
頭部の主なパーツの配置とバランス
さて、頭のベースも描けて、必要な補助線も引けたので頭部にある主なパーツを描きくわえていきます。先ほども話したように、目や口、鼻といった頭部のパーツにはすべての人に共通する位置とバランスがあります。
以下ではそれぞれのパーツの配置とバランスを説明していきます。
人間の目の位置は?
まず目を描いてみましょう。目はキャラクターの魅力を決める重要なパーツです。人の顔を描く時にはみなさん特にきれいな目を描くことに力をいれるのではないでしょうか。
しかし、瞳の中にきれいな模様を描きこむ作業に集中する前に、目の正しい位置を知っておくことにしましょう。
目は人間の年齢やキャラクターのデフォルメ具合で位置が変わってくることもあるのですが、絶対に守らないといけないルールがあります。それは目を頭部の真ん中を通る補助線(今回のラフでは補助線A)よりも上に配置しないということです。このラインを越えてしまうととたんにバランスがおかしくなってしまいます。
ほら、なんだか変でしょう。
人間の目は成人の男性で頭部の真ん中あたり、女性や子供なら補助線Aより少し下になるように定めるとバランスよく配置できます。
今回は男性想定なので補助線Aの上にこんな感じに描いておきます。
でっぱっているまゆ毛
目が描けたら、その少し上にまゆ毛も描いておきましょう。まゆ毛のつく部分の骨は目の部分と比べてもり上がって、高くなっています。ここには眉弓という名前がついています。逆に目の眼球がある部分は骨がなく、下の図のように穴があいています。この穴のことを眼窩と言います。海賊の旗に描いてあるドクロマークなどで特徴的に見えるところです。
この眼窩に眼球がおさまり、まぶたが重なって目ができています。眼窩によって目のまわりがくぼんでいることもあり、まゆ毛のあたりは高くなって見えるのです。実は最初に描いた目のラフはこの眼窩あたりのくぼみも考えた位置に描いています。
人の頭部を描く時は、頭部の凹凸についてもしっかり観察してみましょう。正しい凹凸を知っていれば、立体的でより魅力的な人の頭や顔が描けるようになるでしょう。
鼻はどのようについているのか?
次に鼻を描いてみます。鼻はみなさんご存じのように頭部の中心についています。
つまり先ほど話した「正中線」の上についているのです。では、鼻を正中線上に描いてみます。鼻の頭を正中線に合うように描いてみると…。
これも…何やら変です。
鼻は正中線上についているのは間違いないのですが、鼻の頭が正中線とかさなって見えるのは顔を正面から見た場合だけです。横からみると鼻は顔の平面ラインからかなり出っぱっているのです。
ここも構造を確認しておきましょう。
鼻は人間の顔のパーツで一番高くもり上がっているパーツになります。今回描いている人間の頭部はななめ位置から見たものですので、この「鼻の高さ」を考えて配置する必要があったのです。
正しく描くとこんな感じでしょうか。鼻の頭の位置はまゆ毛とあごの下側の真ん中あたりになります。
耳の正しい配置
次に耳を定めます。耳にも正しい位置があります。
耳の上側は眉毛の位置を横に伸ばしたところ、耳の下側は鼻の頭の位置と合います。
自分の体を使って確認してみるとよいでしょう。まゆ毛に指をあてて、横にスライドすると耳の上端(じょうたん)にあたり、鼻の頭の下に指をあてて横にスライドすると耳の下端(かたん)にあたると思います。
このことから人間の耳はまゆ毛と鼻の頭の間に位置していることがわかります。
ただし、マンガやアニメのキャラクターを作る時に、耳をこの正しい位置におくと少しリアルな感じになってしまうので、デフォルメされたかわいい感じのキャラクターを作る場合はこれよりも少し下にずらして耳をつけることが多いです。この場合は目と口の間くらいを目安に耳を描くとよいでしょう。
口を描いてみる
最後に口を描いてみましょう。口が鼻の頭とあごの間にあることはみんな知っていますが、配置する位置によってそのキャラクターの印象は大きく変わってきます。口はそのキャラクターの知性を表現する重要なパーツになります。
こちらのAとBのキャラは同じ形の口を位置だけずらして描いたものです。
どうでしょうか?かなり印象が違って見えるのではないでしょうか。AにくらべてBはキリっとした印象があるのに対して、Aは少し間の抜けた印象になります。
日本には「鼻の下をのばす」という言葉がありますが、これは女性にだらしない男性などを表現する言葉です。実際に鼻から口がはなれて鼻の下が伸びてしまうと「間の抜けた」あるいは「だらしない」印象のキャラクターになってしまうのです。
口の位置は鼻の頭とあごを三等分した一番上のポイントに定めるとキャラクターの印象が引き締まります。逆に間の抜けたキャラクターを作るのであれば、鼻下からはなして配置してやれば良いのです。
これでとりあえず頭部の主要なパーツの配置とバランスの説明は完了です。
最後にこのラフをもとにキャラクターを描いてみましょう。
「知る」ことが絵を描く力を伸ばす!
今回はここまでですが、人間の頭部にある決まりごとを知っただけで、みなさんの描く絵に変化がうまれているのではないでしょうか。今回の頭部だけでなく人間の体にはこういったすべての人に共通する決まりごとがたくさんあります。
「知っていると描けるけれど、知らないと描けない」
これは絵がうまくなりたい人にはとても重要なポイントのひとつです。どんなに絵を描く力があっても知らないことは描くことはできません。しかし、知ったとたんに描けるようになります。これは絵を描く才能やセンスなどとは基本的に別物で、誰でも必要な知識さえ身につければ正しい絵が描けるようになるのです。そういった意味でも絵を描きだしたばかりの初心者や絵を描くのが苦手だという人ほど正しい知識をインプットしていくことがとても大切になってくるのです。
要点まとめ
では、今回の要点をまとめます。
- 人間の頭部は完全な「球」でなく正面がせまく、側面がひろい
- 頭部の主なパーツの正しい配置とバランスを知る
- 「知っていると描けるが、知らないと描けない」ことがたくさんある
- 絵を描くための正しい知識をどんどんインプットしていく
今回は頭部を使って説明しましたが、他にも人間の体にはたくさんの決まりがあります。その決まりを知っておくと、あるパーツをものさしとして使って、他のパーツの長さや大きさ、位置の正しさを確認することができるようになります。数学で言うところの検算(けんざん)のようなことが他の体のパーツを使ってできるのです。
そのためにも、体のパーツの正しい配置とバランスを知っておくことが大切になります。人間の体にある決まりを知れば知るほど、バランスのとれた美しい人体を描くことができるようになるでしょう。
この講座では、今後もこういった体のパーツの配置とバランスについてたくさん解説していきますので、どうぞお楽しみに。
さて、次回は絵を描くことは少しお休みして、「絵をうまく描く力」と「絵を描く力(画力)のあがり方」について話をしたいと思います。「絵がなかなかうまくならない」と悩んでいる人は、ぜひ読んでみてください。
※頭部や顔を描く時のおすすめの参考書はこちら▼
正面顔から比率を学ぶ回はこちら▼
コメント/Comment