《レベル:初心者~初級者》
今回は絵を描きません。
「画力(がりょく)とは何か?」ということと「画力のあがり方」について話したいと思います。
「絵を描くことは好きだけど、うまく描けなくて苦しい、つらい」
これは一部の天才を除いて、絵を描いている人の多くが感じたことのある思いでしょう。自分はなんて絵が下手なんだ、才能がないんじゃないか、いっそ絵を描くことをやめてしまおうかと思ったことがある人、あるいは今まさにそう思っている人がたくさんいることでしょう。
しかし、安心して下さい。先ほども書いたようにこの思いは絵を描く多くの人、おそらく99%以上の人が感じている思いです。あなただけではありません。多くのプロとして活躍している人たちもこういった葛藤(かっとう)を乗り越えて絵を描く力を少しずつ獲得してきたのです。私などはまだまだですが、一応こういったことを繰り返して絵を描く力をのばしてきたうちのひとりです。
今回はこういったお悩みについて、私なりに答えてみようと思います。
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今回の授業内容と難易度
今回の授業内容です。
- 絵を描く力(画力)とはいったい何か?
- 絵を描く力を育てるために大切なこと
- 画力のあがり方と絵を描く意識のあがり方について
今回は初心者から初級者向けのカテゴリに分類していますが、この悩み自体は中級者やそれより上の人も等しく持つ悩みですので、すべての絵を描いている人が対象となるでしょう。
- 難易度 1:★☆☆☆☆
- 重要度 5:★★★★★
- 画力向上度 3:★★★☆☆
絵を描く力をのばす内容ではありませんが、絵を描く上で知っておいた方が良い心がまえについてお話しします。絵をこれからも描き続けられるかどうかにつながる大切な話になるので重要度は高くしています。
絵を描くことに悩んでいる人はぜひ最後まで読んでみて下さい。
「絵が描けない」はみんなが持つ悩み
まず知っておいて欲しいことは、あなたのまわりですごく絵がうまい人がいたとしても「絵がうまく描けない」という同じ悩みを持っています(その人が10万人に1人とかの大天才でなければ…)。
「絵がうまくてうらやましいな」と思うかも知れませんが、その人もあなたより何段階か前に進んだところで悩んでいるのです。「思ったような絵が描けない…」という悩みは絵を描いている人間なら大なり小なり持っている悩みなのです。
絵を描きはじめてしまった人間につきまとうやっかいな宿命のようなものです(笑)。
絵を描く力(画力)とは「見極める目の力」
さて、絵を描きはじめてしまうと、「絵がうまい」とか「絵が下手」とかいう声をよく聞くことになると思います。では、この「うまい」「下手」を決める画力とか絵を描く力とか言われるものは、いったい何なのでしょうか?
これは25年間、いろいろな絵の仕事をしてきて私なりに導き出したひとつの答えなのですが、絵を描く力、つまり画力とは
「その絵が正しく描けているかどうかを見極めることができる目の力」
だと思います。すぐれた画力を身につけるということは、描いた絵の正確性を見極められるすぐれた目を育てることに他ならないと考えます。
ここでいうすぐれた目というのは、描いた絵のデッサン的な正しさを見極める視覚的な能力のことだけでなく、人体構造に関する知識や遠近法の知識、物理的な事象や時事的な出来事への興味関心など、世の中にある様々な知識のインプットから導き出される絵を総合的に評価する目利きのような能力のことであると言えます。
デッサン的なことだけがうまくても、それではデッサンしか描けません。もちろんデッサン的な能力も大切なのですが、それだけでは魅力的な絵は描けないのです。絵を描くためには、日常にあふれる様々な事象に興味を示し、積極的に自分の頭にインプットしておいて、絵を描く時にそれらの中から必要な情報をアウトプットして描いた絵を評価できる能力が必要なのです。
自分の描いた絵が、要求されているレベルに達しているかどうかを総合的に判断できる目を持っていれば、たとえ間違っていたとしてもそれに気づいて修正できますし、真っ白なキャンバスの上に選ぶべき正しい線をはじめから見つけることができるのです。
絵をうまく描く力を身につけるためにはデッサン的な能力だけでなく、日頃からいろいろなものを観察し、インプットすることが大切です。私がこれまでに出会った絵がとてもうまい人たちはみんな好奇心に満ちあふれ、自身へのインプットを忘れない人たちでした。
多角的な知識があなたの絵をより立体的に、そして魅力的にしてくれるでしょう。
「見極める目の力」はじっくり育てる
では、この「絵が正しいかどうかを見極める目の力」はどうすれば身につけることができるでしょうか?これは残念ですが、簡単な道はありません。努力を続けてじっくりと育てていくことが必要です。
すでに書きましたが、まずは日頃のインプットを増やす努力にくわえ、絵を描き続ける努力も続けなければなりません。自らを育てる努力を続ける人こそがすぐれた絵を描く力を身につけられます。
まわりの誰かと自分を比べる必要はありません。1年前、半年前の自分と今の自分を比べてみるようにしてください。他人は他人、自分は自分です。他の人と比べても意味はありません。自分がどれくらい成長しているのかに注目するとよいでしょう。
絵を描く力をつける近道は?
しかし、絵を見極める目の力、絵を描く力を身につける近道のようなものはあります。いや、遠回りしない道と言う方が正しい表現かも知れません。
私たち凡人が絵を描く力を伸ばすためにできる遠回りしない方法は2つほどあると思います。
遠回りしない方法 その1~絵を描く知識を得る~
まず1つ目は、絵を描くための正しい知識を得ることです。やみくもに絵を描いたり、キャラクターの模写を続けても根本的な絵を描く力は育ちません。まず絵を描くために必要な基礎的な知識を身につけるべきです。人体の構造や正しい比率、パースペクティブに関する知識を獲得しましょう。それらを知った上で絵を描く練習をおこなうことがあなたの絵を見る目の力を大きく育てます。
人を描くにしても、なんとなく線を引くだけでなく、自分が今なにを描いているのかを理解し、確認しながら描くことがとても大切なのです。
例えば、頭部の描き方に関する知識についてはこちら。
遠回りしない方法 その2~線を追わずに塊かたまりで描く~
2つ目は輪郭線(りんかくせん)にまどわされず形を塊で把握する能力を育てることです。
これはこれまでの授業でやってきた立体の「球」や「円柱」でラフをとる練習をくり返すことで身についてくる能力です。
絵の練習方法のひとつとして「模写(もしゃ)」というものがありますが、私はあまりおすすめしていません。特にアニメやマンガの絵をお手本に線だけをまねして写しとる模写は意味がないでしょう。模写は他人の描いた絵の線をまねして描くだけという行為になりがちで、線だけを追いがちです。これではものの正確な形を学ぶことはできず、自分の絵を描こうとした時に応用ができません。それよりは塊でラフを描く練習をすべきです。アニメやマンガのキャラの模写をする時でも体のパーツの塊を意識して、まずはラフを描いてみるとよいでしょう。
その他、模写から何かを学ぶとするなら、服のしわの描き方とか、影の処理など表現のデフォルメ方法でしょうか。これを自分の描く絵にとり入れるための模写なら意味があるかも知れません。マンガやアニメには特有の表現処理がありますので。
絵の練習で遠回りしたくないのなら、絵を描くための正しい知識を得て、塊でラフをとる練習をするのがよいでしょう。この2つの方法は確実にあなたの絵を描く力を伸ばしてくれるはずです。
ラフのとり方についてはこちら。
「画力のあがり方」と「絵を描きたい意識のあがり方」
さて、絵の練習も毎日して、絵についての勉強もがんばっていて、自分ではしっかり努力をしているつもりでも、まったく思うような絵が描けないという時があるでしょう。努力が成果につながっていないのではないかと思うときは苦しいものです。しかし、この苦しさは画力のあがり方の特殊性に原因があり、必ずしもみなさんの努力が身についていないということではありませんので、毎日がんばっているのなら焦る必要はありません。
これも私の実感したものになるのですが、ある大先輩にも「そのとおりだ」と太鼓判を押してもらった見解ですので、おそらく大きく間違ったものではないと思っています。絵を描く力、画力の向上のしかたは、かなり変わったあがり方をするのだと知っておくことも絵を描くという努力を続けていくために大切だと考えますのでここで話をしておきます。
画力のあがり方は階段状
絵を描く力、いわゆる画力は階段のように上昇します。
努力を続けていれば徐々にあがっていくという力ではなく、長い停滞期があるのです。しかし、それでも描くことを続けていれば、ある日突然ポンと上昇します。
すでにある程度の期間、絵を描いているという人は「昨日まで全然描けなかったものが、今日はすごく良い感じに描けた」という経験が1度はあるのではないでしょうか?これが画力のあがった瞬間です。
このように描く努力を続けていれば画力は突然あがります。しかし、この画力のあがり方の特殊性こそが絵を描く人間に「全然思うような絵が描けない」という悩みを生む原因なのです。
絵を描きたい意識とのずれが苦しみを生む
画力のあがり方が階段状であるという話をしましたが、なぜこの画力の上昇のしかたが苦しみを生むのでしょうか?
それは、画力が階段状にあがっていくのに対して「絵をこのように描きたい」という意識はスロープ状にあがっていくことが原因だと思います。下の図を見てください。
この図は「絵をこう描きたい」という意識と実際の画力の上昇のしかたを表わしたものです。意識と画力に大きなずれが生まれている期間があることに気づくと思います。ここのずれが特に大きくなるところが一番苦しい時です。「自分はなんて下手なんだ。絵を描くことをやめてしまおう」と思い悩むくらい苦しくなるのがまさにここです。
しかし、その先ですぐに画力があがるポイントがくるのもわかると思います。「絵が描けない!」と悩みながら、それでも描く努力を続けていると画力は突然あがります。そして「こう描きたい」という意識に画力に追いつきます。(※ただし画力が意識を上回ることもありません…)
この時が一番気持ちの良い瞬間です。何でも思うように描けているように感じます。絵を描いていて本当に楽しい時です。
しかし、その幸福な期間もすぐに過ぎ去ってしまいます。「絵をこう描きたい」という意識は再びスロープ状に上昇しはじめ、画力はそこで停滞します。また意識と画力にずれが出てきて同じ苦しみがはじまります。絵を描くということはこの意識が先にあがり、画力が追いつき、そしてまた意識が上昇しはじめるということの繰り返しです。
この画力の上昇の特質を知っていると「絵が描けない」原因を理解できます。あなたが努力を続けているなら思うような絵が描けなくても焦る必要はありません。そのような時はもうすぐ画力があがるという直前の時でもあるのです。
要点まとめ
それでは今回の要点をまとめます。今回は少し多いです。
- 「思うような絵が描けない」はみんなが持っている悩み
- 絵を描く力は絵を描き続けることとインプットによってゆっくり育つ
- 絵を描くための正しい知識を得ることで遠回りせずに絵を描く力を得られる
- 線でなく塊を意識してラフを描くくせをつける
- 画力の上昇は階段状、描きたい意識の上昇はスロープ状
- 一番苦しい時は画力があがる直前
今回は絵を描く時の心がまえを中心に話をしました。絵をうまく描くには心の安定も大切です。「下手だ下手だ」と自分を責めていても良い絵は描けません。うまく描けないのは、あなたが下手なわけでなく意識が先に成長しているからです。意識の成長は絵を見る目の成長でもあります。つまり自分の描く絵に満足できなくなっているだけです。決して絵が下手になったわけではありません。
一度あがった画力は下がることはありません。苦しいのはあなたが確実に成長している証拠です。
今回の授業を通して、絵を描く力が持つ性質や育て方、上昇のしかたを理解して「苦しい時もある」と割り切って日々の努力を続けていってください。
次回からは人間の全身図のバランスや比率について解説していきます。
人間を描くことが難しいと思っている人は、まず人体の比率やバランスを知ってみてください。それだけで、びっくりするほどうまく人間が描けるようになります。私もそうでした。
それでは、また次回。
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