《美術系大学志望者向け》
毎年、夏を過ぎた9月頃から本格的な大学入試の時期がはじまってきます。
一般の大学であれば受験科目の勉強を進めていくことになりますが、美術系の大学受験を考えている人は画力を伸ばすトレーニングを続けているかと思います。
このトレーニングと合わせて重要なのが、面接試験の時などに提出することの多いポートフォリオの準備です。
今回はマンガやアニメ、イラスト系の学科やコースを持つ美術大学に提出するポートフォリオの作り方にしぼって解説します。
私は以前、ある美術系大学でマンガやアニメ、イラスト系の学科の入試を担当する教員で、10年に渡って受験者が提出して来た多くのポートフォリオを見て評価する立場にありました。
今回はポートフォリオを評価する時に、実際に私が見ていたポイントについてお話してみます。
大学のマンガやアニメ、イラスト系の学科の受験を考えているが、ポートフォリオをどのように作ったら良いか悩んでいる人は参考にしてみて下さい。
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ポートフォリオ(Portfolio)とは何か?
まず、ポートフォリオとは何でしょうか?
ポートフォリオという言葉には色々な意味がありますが、美術系の学校でポートフォリオといえば「作品集」のことを指すことが多いでしょう。
そして、一言で言えばポートフォリオとはあなた自身を代弁してくれるものです。
あなたはあなた自身のことをよく知っていると思いますが、入試でも就活でも試験や面接で評価する側の人はあなたのことを何も知りません。
この何も知らない人に、あなたのことを少しだけ知ってもらう目的で提出する「作品集」がポートフォリオです。
逆に言えば、評価者はあなたのごく一部でしかないポートフォリオを通してあなたのことを評価してくるわけです。
あなたがどれだけ優れた才能を持った人間でもポートフォリオにそれが表れていなければ評価されないということになってしまいます。
このことからもポートフォリオを適当に作るわけにはいかないということがわかるかと思います。
ポートフォリオの作り方
では、ポートフォリオはどのように作れば良いでしょうか?
しっかりと評価してもらえるポートフォリオを作るためには、ポートフォリオとしての体裁を整えることが大切です。
ここではポートフォリオを作るために必要なものと作る時の考え方にわけて説明します。
ポートフォリオを作るために用意するもの
クリアポケット付きファイル
ポートフォリオを作る時には透明なポケットがついている冊子タイプのファイルを用意しておくとよいでしょう。
紙をはさむことができればバインダーなどでもいいのですが、リングバインダーだと作品に穴を開けるか別に穴の開いた透明なクリアファイルを用意する必要があります。
レバーで固定するタイプのものだとたくさんの作品をはさみにくい上にはずれやすく、何よりも見にくくなってしまうのでポートフォリオ向きではありません。
クリアポケット式のファイルだと作品をポケットに入れていくだけですし、出し入れも簡単でポートフォリオの作成に向いています。
クリアポケットファイルは100円ショップなどで売っているものでも良いですが、表紙部分の厚みが薄いものはファイルの形状が不安定で見る時に持ちにくいので避けた方が良いでしょう。
表紙のしっかりしたタイプのファイルの値段は、ポートフォリオに良く使われるA4サイズやA3サイズのものであれば、A4サイズで500円~600円程度、A3サイズの大きいもので1500円~2000円くらいが目安となるでしょう。
クリアファイルのポケットは上から入れるタイプと、横から入れるタイプのものがあります。
個人的には横から入れるタイプのものの方がA4サイズのファイルにA3サイズの作品を入れられたりするのでより使いやすいと感じます。
横入れのタイプのファイルは以下のリンクのようなものです。上がA4、下がA3です。
※リンク先のAmazonのサイトで大きいサイズの紙の収納方法の写真も見られます。
ファイルのサイズや収納の方法については、自分の作品の大きさや見せ方、使いやすさを考えて選ぶとよいでしょう。
ポケットの数はポートフォリオ用なら20~40ポケットくらいのものが良いと思います。
分厚いと持ち運びの時も重いですし、見る方もページ数が多いと疲れてしまいます。
カラーバリエーションも色々ありますが、これは自分の好きな色のもので良いでしょう。
ただ、黒い表紙のものなら鉛筆汚れなどが目立ちにくいメリットはあります。
文房具店に行くと色々なメーカーのポケット式のファイルが売っているので、実際に実物を手に取って使いやすいものを選んでみましょう。
自分の作品
これが一番大切ですが、自分の作品を準備しましょう。
何となく描いたものではなく、ポートフォリオに入れるべき作品を厳選しましょう。
これまでに自分の作った作品のベスト版を作る感じで取り組むと良いでしょう。
たくさん絵を描いていると「これは二度と描けないかもしれない」と思えるほどの傑作ができあがることがあると思います。こういったものを選んで入れていきましょう。
他人の描いたものはだめですが、二度と描けないかもしれない傑作でも、まぎれもなく自分で描いたものなら臆せず積極的に入れていきましょう。
自分でどの作品が良いのか判断がつかなければ、学校の美術の先生や画塾の先生に選んでもらってもよいでしょう。
ポートフォリオを作る時に考えること
ポートフォリオを作る時には以下の点について意識してみると良いでしょう。
他の人が見やすいか
何かものを作る時に他者視点を持つことはとても大切です。
たくさんのポートフォリオを見ていると、とても見にくくて何が伝えたいのかわからないものに出会うことがよくあります。
ポートフォリオもひとつのコンテンツだという意識を持って、他の人が見やすいか、わかりやすいかということを常に考えながら作ることが肝心です。
自分では気づかないところもあると思うので、ポートフォリオができあがったら家族や友人などに見て感想をもらってみるとよいでしょう。
ポートフォリオの改善点が見つかるかも知れません。
あなたのことがわかりやすいか
ポートフォリオはあなたのことを代弁してくれる作品集です。
評価者にあなたのことがしっかり伝わるような工夫をほどこしていきましょう。
例えば、目次を入れたり、作品の種類(デッサンやクロッキーなど)ごとに見出しを作ったりすると閲覧性が高まるので、そのようなポートフォリオからは「他の人への配慮ができて、コツコツと丁寧な作業ができる」という人間性が見えてきます。
逆に、ただ単に作品をファイルに入れただけのポートフォリオからは、荒っぽくて地味な作業が苦手な印象を受けてしまいます。
この2つのポートフォリオの作品のレベルが同じくらいであれば、前者の丁寧に作られたポートフォリオの方が評価が高くなるのは当然のことでしょう。
せっかく良い作品ができているのにポートフォリオの作り方で損をしないようにしましょう。
さらにあなたのことを良く知ってもらう工夫として、あなた自身を紹介するページを作っても良いでしょう。
好きな食べ物や好きな映画、得意なことなどを書いたページがあると評価者としてもあなたのことが良くわかり、面接の時などには話題が広がります。
適切な作品数
ポートフォリオの作品数も意識しましょう。
少なすぎては評価ができませんし、多すぎても評価者側はしっかり見てくれません。
評価をする側も時間の制限のあるなかで、あなたを含めた数十人とか百数十人分のポートフォリオを見なければならないわけです。
面接に100ページくらいある分厚いポートフォリオを持ってくる人もいますが、そもそも10分や20分程度の面接時間でそれだけの作品を見て評価することはできません。
逆に少なすぎても評価ができません。
ファイリングもされていないコピー用紙に描いた2~3枚のイラストを持ってきた人もいましたが、これはそもそも入学したいのかどうかを疑ってしまうレベルです。
面接用のポートフォリオであれば面接時間の長さにもよりますが、10~15分くらいの個人面接であれば10~20作品程度、30分くらいの個人面接なら20~25作品程度で良いでしょう。
事前提出するポートフォリオであれば、多くて30~40作品くらいでしょうか。
作品を入れるクリアファイルのポケット数も作品数に合わせて選びましょう。
10作品しかないのに40ポケットもあるファイルだと無駄が多いですし、評価者側から見ると「ポートフォリオを完成させられなかったのかな?」と思ってしまいます。
クリアファイルを使い場合、何も入っていないページはなるべく少なくなるようにしましょう。
評価者が見ている(見たい)ポイント
では、評価する側である大学教員はポートフォリオのどこを見ているのでしょうか?
以下は私がポートフォリオを評価していたポイントになります。
あくまで1人の評価者としての見解ですので、評価担当者それぞれ別の見方をするという点を踏まえて参考程度に読んで下さい。
入学後授業について行けるか
まずポートフォリオでは基礎的な画力を見ます。
これは入学した後、大学のカリキュラムについていけるかどうかを判断するためです。
あまりにも画力が低い人を合格させてしまうと、入学したあとの授業についていけず、さらには周囲の学生との画力の差に悩むこととなり、最悪は退学という事態になりかねません。
こういった不幸な事態を避けるために、まず授業についていくだけの基礎的な力があるかどうかをポートフォリオを通して判断するのです。
どれくらい描くことが好きか
どれくらい描くことが好きかどうかも見ています。
ポートフォリオを見れば、その人がひとつの作品にかけた熱量も感じられるので、どれくらい描くことが好きなのかもだいたいわかります。
やはり、大学に入って来てから大きく伸びる人は描くことが好きな人です。
描くことが好きな人は、継続して描くことができる人です。
せっかく入学してくれるなら、大学の授業を通して大きく成長して、就職するにせよ作家として活動するにせよ明るい未来を手に入れていってもらいたいと思っています。
そのため絵を描くことが好きかどうかも判断基準のひとつです。
描くことがそれほど好きでない人が入学しても4年間の大学生活は苦痛なものになってしまうでしょう。
丁寧に作業ができているか
マンガでもアニメでもイラストでも作品作りには丁寧な仕事が求められます。
丁寧な仕事をするためには、何時間も机の前に座り続けてコツコツと描く作業ができるかどうかが重要になってきます。
あきっぽい性格では長時間の作業に耐えられず、作業に対する集中力が途中で切れてしまいます。
大学の演習や実習でも同じです。
長い授業だと4時間も5時間も描く作業を続けることになります。
この長い授業にたえられるだけの集中力を持っているかどうかも、ポートフォリオの作品や構成の丁寧な仕上げ具合から読み取ることができたりします。
入学後の成長見込み
大学の4年間でどれくらい成長する見込みがあるかもポートフォリオから判断します。
いわゆる「のびしろ」です。
「描くことが好きか」や「丁寧な作業ができるか」の判断基準とかぶる部分もあるのですが、入学後にどれくらい伸びる可能性があるか、どういった方向を目指すと伸びるかという点も見ています。
これも学生と大学のカリキュラムのミスマッチを避けるためです。
イラストを描くことが好きな作家気質の人がアニメーションを学ぶコースに入っても、絵を動かすことや職人的なアニメーターの仕事は物足りなく感じるでしょう。
評価する教員側は主にこのようなところを見ています。
いずれにせよポートフォリオに入れる作品は丁寧に作ることを心がけましょう。
丁寧に作られた作品は丁寧に評価してもらえますし、正しい評価をもらえます。
ポートフォリオに入れなくてよいもの
ポートフォリオに入れる作品には入れるべきものと入れなくて良いものがあります。
まず、入れなくてよいものを見ていきましょう。
マンガやアニメの模写やトレース
ポートフォリオにマンガやアニメのキャラクターの模写やトレースを入れてくる人がいますが、これはほとんど意味がありません。
マンガやアニメのキャラクターは他の誰かの描いたもので、あなたの作品ではありません。
模写やトレースからはあなたがどのような絵を描くのか伝わりにくく、結果としてポートフォリオ全体の評価まで下げてしまいかねません。
ポートフォリオは自分の描いた作品で勝負するのがよいでしょう。
オリジナルキャライラスト
自分で創作したオリジナルキャラクターのイラストも必要性は薄いです。
キャラクターデザイン系の学科やコースなら2~3点くらいはあっても良いかも知れませんが、それよりも基礎画力がわかるデッサンやクロッキーなどの作品をたくさん入れましょう。
オリジナルキャラクターの作品を入れるのであれば、色まで塗って完成したイラストだけではなく、制作過程が見えるように制作途中のラフ絵なども一緒にならべて見られるように構成を工夫してみてもよいでしょう。
作品データ集(CDやDVD)
作品をCDやDVDにいれてデータとしてポートフォリオのファイルに入れるのもおすすめしません。
大学側がそのような形でのポートフォリオの提出を求めているなら良いですが、CDやDVDは非常に閲覧性が悪いです。
特に時間の限られた面接試験などで持っていくべきものではありません。
評価者側がそのCDやDVDを再生できる機材を用意しているとは限りませんし、機材があってもデータの形式よっては見ることすらできないかも知れません。
どうしても面接の時に動画などを見せたい場合は、再生できる機材も自分で用意しましょう。
ipadなどのタブレットにデータを入れてすぐに再生できる準備をしておきましょう。
それでも面接時間などによっては再生を断られる可能性もあります。
ポートフォリオに入れる作品は紙の方が圧倒的に見せやすいし、見やすいです。
ポートフォリオに入れるべきもの
次にぜひポートフォリオに入れておいてもらいたいものについてです。
デッサンやクロッキー
これは必ず入れておくべきものです。
デッサンやクロッキーからは、あなたの基礎画力がよくわかります。
これらが入っていないだけでポートフォリオの評価は1段階下がると思っても良いくらいです。
できれば、デッサンはひとりでやらないで、美術の先生や画塾の先生といった専門家の指導を受けながら描いた方が良いでしょう。
その方が良い作品ができますし、デッサンを通して画力を伸ばすこともできるでしょう。
あなたのまわりにデッサンやクロッキーを描く環境が整っていないのであれば、これを機会に画塾に通ってみるのもひとつの方法です。
画塾に通って指導を受けるだけの時間やお金がないという場合も、画塾や絵画教室は2000~3000円程度の料金で外部の人でも参加できるデッサン会やクロッキー会を開催していることがあります。
ネットで調べてみると色々情報が出てきますので、参加しやすそうなところがあれば試しに行ってみるのも良いでしょう。
背景のあるイラスト
キャラクターだけのイラストはポートフォリオに入れてもあまり意味がありませんが、キャラクターに加えて背景も描かれているイラストであれば話は変わってきます。
オリジナルのキャラクターが描きたいのなら、ぜひ背景も一緒に描きましょう。
キャラクターと背景を違和感なく合わせて描くにはかなりの画力が必要です。
こういったイラストからは、あなたの持っている画力や構成力のレベルだけでなく、これまでの努力の積み重ねも見ることができます。
ラフの残ったらくがき
ポートフォリオに入れる作品はきれいに清書して色を塗った完成作品でなくてもOKです。
ポートフォリオの中身すべてがらくがきというのでは評価側も困ってしまいますが、ポートフォリオを構成する作品の一部にラフの残ったらくがきが入っているのは歓迎されることでしょう。
人の全身を描いた作品
「人が描ける」というのは絵を描くひとつの前提でもあります。
将来的に背景画家やロゴデザイナーなどをめざすとしても、何かを描く学部やコースに入ったのなら、その大学のカリキュラムにおいては人を描くということは避けて通れません。
人物がどれくらい描けるかも見てもらえるようにしておきましょう。
デッサンやクロッキーで人の全身を描いた作品を入れているのであれば、それでもOKです。
あなた自身の紹介ページ
ポートフォリオは自己紹介も兼ねた「作品集」です。
もしページに余裕があるようなら、自己紹介のページも作っておくと良いでしょう。
1ページくらいの簡単なもので大丈夫です。
自画像やあなた自身を表すアイコンなどを描き、これまでの簡単な経歴や好きな食べ物、趣味、特技などなど、評価者にあなた自身を知ってもらえる情報を載せておきましょう。
面接の時など、これで話が広がることが多いです。
正直なところ、評価側の人間としても面接の時に上手く話題や質問が続けられず話がつまってしまうことは、ままあったりします。
そんな時に自己紹介ページに好きな漫画や映画の情報などが書かれていたりすると、これで間をつなぐことができて助かることもあります(笑)。
入試は厳密な公平性のもとで実施されますが、評価する教員も人間です。
楽しく話ができた人の方がそうでない人よりも面接の点数は高くなるかも知れません。
オープンキャンパスに持っていこう
4月から8月頃までは、多くの大学でオープンキャンパスを開催しています。
ポートフォリオができたら、自分の志望する大学のオープンキャンパスに持って行って先生に見てもらいましょう。
ほとんどの大学のオープンキャンパスでは入試についての相談もできるようになっています。
自分が受験しようと思っている学科やコース、専攻の先生に直接ポートフォリオを見せてアドバイスをもらえるとても貴重な機会です。
私も受験希望者のポートフォリオをたくさん見て、色々なアドバイスをしてきました。
何度も何度もオープンキャンパスにポートフォリオを持ってきて色々な教員からアドバイスをもらい、合格できるポートフォリオを作り上げていった人もいました。
オープンキャンパスは自分のポートフォリオをブラッシュアップできる最適な機会です。
ぜひ、うまく活用してみて下さい。
▼オープンキャンパスへの参加の仕方はこちらの記事で詳しく解説しています
まとめ
今回のまとめです。
ポートフォリオに入れる作品はとにかく丁寧に作りましょう。
清書して色も塗られたイラストでも手荒く作られた作品からは手荒さが見えます。
逆にラフの習作であってもしっかり丁寧に作られた作品は洗練されたものになっています。
今回の記事が、あなたのポートフォリオ作成の参考になれば幸いです。
今回は以上です。
それでは、また次回。
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