《初級者~中級者向け》
バナナの皮を踏むと、すべるというのは人類共通の認識でしょう。
「マリオカート」などの世界中で販売されているゲームでも、バナナの皮は踏むとすべるアイテムとして登場しています。
今回は、なぜ人はバナナの皮を踏むとすべってコケるのかについて考えてみます。
「絵を描くことと何の関係があるの?」と思うかも知れませんが、実は「なぜすべってコケるのかという理屈を考えて絵を描く」というところにポイントがあります。
絵を描く時にはその原因やプロセス(過程)を考えることが大切だというお話です。
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はじめに
バナナの皮ですべってころぶと言うのは、マンガやアニメなどで見ることのできる古典的なコメディ表現のひとつです。
人類の長い歴史の中で、はたして実際に道に落ちているバナナの皮ですべってコケた人がどれくらいいるのかはわかりません。
私もバナナの皮を踏んだことはないですし、道の上に落ちているところを見た記憶すらありません。
もしかするとバナナの皮ですべってコケるというのは、マンガやアニメの世界だけの話で現実には一人もいないのかも知れません。
しかし、調べてみると「なぜバナナの皮ですべるのか」については色々な研究がなされています。
さらに英語版のウィキペディアには「Banana peel」というバナナの皮に関するページがあり、バナナの皮でコケるギャグの起源についても述べられています。
この記事によると19世紀のアメリカでバナナの消費が増え、路上にバナナの皮が捨てられることが社会的な問題になったことで、バナナの皮ですべるギャグが生まれたという経緯があるようです。
※参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Banana_peel
では、人がバナナの皮ですべるとコケてしまうのはなぜでしょうか?
これはバナナの皮に限らず、凍った道の上や濡れた床などすべりやすい地面などでも同じです。
バナナの皮ですべったことはなくても、冬の凍った道の上ですべって怖い思いをしたという経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
「すべったらコケる危険がある」ということは経験から理解できると思いますが、「すべる」ことが「コケる」ことにつながってしまう理屈はなんでしょうか?
なぜ「足がすべるとコケるのか?」という理屈を知ると、すべらないようにする対応を事前に取ったり、運悪くすべってしまった時にとっさのリカバーもできるようになるでしょう。
絵を描くだけでなく、実生活面でも役に立つ知識といえます。
実のところ「すべってころぶ」という状態をマンガやアニメで絵として表現するためにも複合的な知識を組み合わせてアウトプットすることが求められます。
これはかなり高度な表現だと言えるでしょう。
必要な知識を持たずに適当に描いてもすべってころんだようには見えません。
描く側が色々なことを理解した上で描かないと完成した絵も嘘っぽくなってしまうのです。
今回はすべった時にコケてしまう理屈を通して、絵を描く時に必要となる色々な知識を組み合わせて作り上げる表現について考えてみます。
重心と支持基底面の基礎
すべったらコケる理由を考えてみます。
なぜ人がコケるのかを知るためには、先に人が立っていられる理屈を知る必要があります。
人が立つ理屈を知るためには重心と支持基底面についての知識が必要です。
重心と支持基底面についてはすでにいくつか解説記事を書いていますが、ここでも簡単におさらいをしておきます。
※重心と支持基底面についての詳しい解説記事はこちら
「重心」という言葉はこれまでに聞いたことがあるかも知れませんが、「なぜ人が立っていられるのか?」ということを理解するためには、これに合わせて「支持基底面」の存在についても知っておく必要があります。
まず、普通に立っている状態であれば人の重心はおへその下あたりにあります。
人間の重心とは地球が人間を引っ張る重力が代表して働く点くらいに理解しておいて下さい。
つまり地球はこの重心位置で人間をつかんでグイグイと地球の中心へと引っ張っているわけです。
そして、支持基底面ですが、これはものの重心を支える面のことです。
人が両足で立っている両足重心の時は両足を広げた幅が支持基底面となり、片足で立っている片足重心では重心ののっている足の裏のみが支持基底面となります。
地球が重心を引っ張る時、重心と地球の中心を結ぶ直線上に支持基底面が存在すると人間や物はその姿勢を保つ(立っている)ことができます。
逆に言えば重心が支持基底面の外へと出てしまうと人や物はコケてしまうわけです。
まずはこの重心と支持基底面の基本的な関係をおぼえておいて下さい。
歩く時の脚の動き
次に人の「歩く」という動きについて考えてみます。
バナナの皮を踏むためには、人が歩いたり走ったりして移動している必要があります。
今回は歩いている状況で考えてみます。
「歩く・歩行」というのは人間にとって基本的な移動手段です。
人は立っている姿勢を維持するためには足を地面につけて支持基底面を作り重心を支える必要があるのですが、一時的に片方の足だけに重心をのせる片足重心の状態になることが可能です。
片足重心になると重心を支えていない方の脚は自由に動かすことができます。
これは実際に自分でやってみるとより実感できるでしょう。
さらに、この自由に動く脚を移動のために前に出し、それを左右の脚を使って交互に役割を交代しながら繰り返しておこなう運動が「歩行」です。
では、この歩行の動きをより詳しく見ていきましょう。
上の図は、横から人の歩行の動きを順番に示した図です。
この図では奥の右脚が重心を支える役目の「軸足」、手前の左脚が体を前へと進めていく役割を持つ「運び足」となっています。
①の図で説明すると、右脚がこれから「軸足」としての役割を担当する脚で、左脚はちょうど軸足の役目を終え、これから「運び足」となって前に出ていくことになります。
歩く動きを続ける場合は次の一歩では、左脚が軸足、右脚が運び足へと役割が入れ替わり、これを繰り返していくことになります。
上の図では歩く動きを①~⑤の5つに分解して示しています。
順にどういう状態なのかを見ていきましょう。
まず①は左右の脚の幅(歩幅)が一番開いた状態です。
ちょうど左脚が軸足の役目を右脚へとバトンタッチする瞬間です。
ここから右脚(赤)を「軸足」、左脚(青)を「運び足」と考えます。
アニメなどではこの絵が歩行の動きの起点であるキーフレーム(原画)となります。
続いて②です。
右脚(赤)は完全な軸足となるため地面に接地し体を支えます。
歩いている時には足音がでますが、それはこの軸足の裏が地面につく時に発生する音です。
そして、運び足である左脚(青)は前方へと体を推進させるために地面を蹴って前へ出ていきます。
③で体が立ち上がってきます。
軸足に完全に重心をのせ、運び足を引き上げて来た状態です。
歩行の時の上半身と下半身ものねじれが解消され、体は正面を向きます。
右脚(赤)と左脚(青)が交差し、次の図④から運び足である左脚が右脚より前に出ます。
脚はよく「コンパス」に例えられますが、①の脚が開いている状態はコンパスを開いた状態、そして③の脚がそろった状態はコンパスを閉じた状態に似ています。
この時、コンパスの頭の高さを比べてみましょう。
地面の位置は同じなのでそこを基準とすると、脚が開いているものよりも閉じたものの方が頭の位置が高くなっているのがわかります。
この状態は人が歩く時の脚でも同じことがおこっています。
脚がそろった③の状態になると、脚が閉じたコンパスと同じ状態になり、コンパスの頭である腰から上の部分が持ち上がることになります。
これが歩行の時の上下動です。
人の歩きをアニメーションで表現する時には、この上下動が重要な要素のひとつとなります。
まとめると、③は軸足がまっすぐ立ち上がり、頭の位置が一番高くなる瞬間です。
次の④は③で立ち上がった体を前へと倒していく動きです。
右脚(赤)は軸足としての役割はほとんど終えており、左脚(青)が前に出て新たな軸足となってくれることを信じて、重心を渡しにいっています。
人が何かにつまずいてコケるというケースは、主に③から④にかけての動きのどこかで運び足のつま先が地面の段差などにぶつかってしまい、予定通り軸足になれなかった時に生じます。
最後の⑤は、これまで運び足だった左脚(青)が次の軸足となるために地面についた状態です。
ちょっと重要なポイントですが、足が接地する時は踵からつきます。
無事に運び足が地面につき、次の軸足になることができれば、今度は逆の脚で役割を替えて①~⑤の動きを繰り返して歩いていくことになります。
以上が人の歩行の一連の動きです。
この動きを元に次は「すべる」理屈について考えてみます。
足がすべると何がおこるか?
歩いている時の脚の動きを踏まえて改めて考えてみると、すべるのは地面に接地していて重心を支える役目を持っている軸足ということになります。
つまずく時とは違って、すべる時には宙に浮いている運び足は無関係です。
「すべる」とは、接地している軸足(支持基底面)が予定外のところに動いてしまうことで、その結果として重心を支えられなくなった時に人はコケてしまうのです。
足がすべる2つのパターン
さて、バナナを踏んで足がすべるパターンは大きくわけて2種類あると考えられます。
重心を支える役割を持つ軸足が前方にすべるパターンと後方にすべるパターンです。
もちろん、ななめ前方やななめ後方に動くパターンもこれに含みます。
どちらのパターンになるかは、歩行の一連の動きのどのタイミングでバナナの皮を踏んだのかがポイントになってくるでしょう。
まず1つ目のパターンは、上図の①あるいは⑤の足が地面に接地した瞬間に踵でバナナを踏んでしまうというパターンです。
このパターンでは、これまで運び足として前方へと体を推進させて来た勢いも合わせて前方向に軸足がすべることになるでしょう。
2つ目は②で足の裏全体を地面につけた時にバナナの皮を踏みしめてしまったケースです。
②から③にかけて軸足へ体重をのせていく時に足の裏にバナナの皮があると軸足自体は前から後ろへと体を運んでいる途中で軸足にかかる力も後ろがかりになっているので後方へとすべりやすくなるでしょう。
大別してバナナの皮を踏んだ軸足は主にこのどちらかのパターンですべることになると考えられます。
すべった時にコケる理由
すべるとコケる理由についても考えてみます。
軸足がすべると支持基底面が動いて、人が立っていられる前提である「支持基底面の上に重心がある状態」が崩れてしまいます。
上であげたバナナの皮を踏んで足がすべる2つのパターンでは、どちらも軸足の裏にある支持基底面が重心を支えるという役割をはたせなくなってしまっています。
すべって重心の下から支持基底面がなくなるというのは人にとっても予想外の事態で、とっさに反応して体勢を整える(運び足を地面につけて新たな支持基底面を作る)行動が間に合わないことが多く、結果としてコケるという状態にいたります。
異なる2つのコケ方
どのようにコケるかは2つのパターンで異なります。
軸足が前方にずれてしまうパターンでは尻もちをつき、後方に軸足がすべるパターンでは前につんのめるような感じのコケ方になるでしょう。
絵に描く時はどちらのパターンでコケたのかを考えて描く必要があります。
さらにコケ方によってバナナの皮を描く位置も変わるということも意識できればより良いでしょう。
足が前にすべったパターンでは脚を前に蹴りだすような感じになるので皮は前方に、後ろにすべったパターンでは皮も後方に飛んでしまうような感じになるでしょう。
すべってコケない歩き方
バナナの皮に限らず、すべってころぶというのは人間にとってリスクの高い状況です。
すべることは仕方ないとしても、コケるという事態は避けたいものです。
では、すべりにくい、こけにくい歩き方というのはどういうものでしょうか?
当然のことですが、すべりやすい地面の上やバナナの皮を踏んだ時に大股で勢いよく歩いているとコケやすくなります。
スピードものっている状態で運び足を地面に対してななめからつけることにより、運び足の接地時に足が前方へとすべるリスクが高まります。
また、軸足が地面を蹴って前へ進む時にも軸足に大きな力がかかるので、摩擦の少ない地面の上ではその強い力にたえられず後方へと足がすべることになります。
その点、凍った雪の上を小さい歩幅でちょこちょこ歩くような歩き方はすべりやすい地面の上の歩き方として理にかなっています。
小さい歩幅であれば歩くスピードもゆるやかで運び足も大きく動かないため、もし軸足がすべってしまった際にも運び足を地面につけてコケないようにリカバーする行動もすばやく取れます。
運び足を接地する時もななめからでなく、真上から足の裏全体を地面につけるようにすることで力が予定外の方向へ抜けてしまうリスクが回避できます。
さらにつま先に力を入れて地面を強く蹴る必要がないちょこちょこ歩きなら、前に進む力も弱くてよいので地面を蹴る時に軸足が後ろにすべりにくくなります。
バナナの皮を踏むことはほとんどないでしょうが、すべりやすい地面を歩く時には、まずすべるリスクを下げるために強い力を入れることを避けつつ、もしすべってしまったとしてもリカバーしやすいように動き自体をコンパクトにすることを心がけるとよいでしょう。
まとめ
全体的に雑談のような話になってしまいましたが、絵を描く時に今回のような人がすべってこける理屈から考える癖をつけておくことは実はとても大切なことです。
何かを絵として表現する時になぜそうなったかを考えて描くと描いた絵の説得力が増します。
今回の「すべってこける」という表現においてもすべった原因と経過、そして最後に起こる結果を考えることで理屈に合った絵を描くことができるようになります。
絵を描く時にはそうなった原因やプロセスを考えてみようというのが今回の要点です。
絵は理屈を考えて描かないといけないことが、意外と多いのです。
今回は以上です。
最後まで読んでもらってありがとうございました。
次回からはパースの2点透視図法について解説します。
それでは、また次回。