《初級者向け》
前回の授業では1点透視で箱を描く方法について説明しました。
1点透視についてある程度の解説が終わったので、パースで絵を描く時に注意する点について説明する準備が出来ました。
パースについて理解すれば、それを使って絵を描きたくなりますが、なんでもかんでもパースに従って描けば良いというわけではありません。
今回はパースを使って絵を描く時の注意点について説明してゆきます。
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今回の授業内容と難易度
では、今回の内容になります。
今回の授業では1点透視についてある程度知っていることが前提になります。
1点透視についてよく知らないという場合は、まずこちらの授業回を読んでもらった方がより理解がしやすくなるでしょう。
- 難易度 3:★★★☆☆
- 重要度 4:★★★★☆
- 画力向上度 3:★★★☆☆
初級者向けということで難易度は少し高めですが、パースで絵を描く場合に必要となる注意点全般について説明します。
パースは便利ですが、知らないと思わぬ間違いを引き起こす可能性も秘めています。
ぜひおぼえておいて、失敗を回避しましょう。
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パースの知識を身につけるためには、お手本を見ながら実際に描くのが一番です。
古本でも良いのでパースの参考書を何冊か手元に置いておくのがおすすめです。
位置による見え方の違い
アイレベルに近いとどう見える?
まずはこちらの絵。
前回、描き方を説明した1点透視の箱です。
この箱をじっくりと観察してみて下さい。
特に上になっている面と、底になっている面を比べて何か気づくことはないでしょうか?
わかりにくいという人は、こうするとどうでしょうか?
先ほどの箱に、さらにもうひとつ同じ箱を積んでみました。
2段目の箱の上の面はアイレベルと同じ高さになりましたが、1段目の箱の上の面と2段目の箱の上の面の見え方が違うのがわかるでしょうか。
1段目の箱は上の面が見えていますが、2段目の箱の上の面は見えません。
わかりやすいように箱をさらに分割してみましょう。
アイレベルに近づけば近づくほど箱の横の面の見える範囲がせまくなっているのに気づいたでしょうか。
これがパースの詰まり(パースの圧縮)です。
ものの横の面はアイレベルに近づくと見える面がせまくなっていくのです。
これはものの高さがアイレベルとそろってくる(近づいてくる)ことによって起きます。
逆にアイレベルから離れると見える面積は広くなります。
実際に箱か何かを目の前で上げたり、下げたりして観察してみるとよくわかるでしょう。
ちなみに観察する時のあなたの目の高さがアイレベルです。
アイレベルの上は見上げた、下は見下げた絵になる
さらに注意しておきたいのがアイレベルをはさんで上あるいは下の見え方です。
先ほどの箱の上にさらに同じ箱を2つ積み上げてみましょう。すべて透明の箱です。
アイレベルをこえるように2つ積みましたが、今まであった2つの箱と新しく積んだ2つの箱では見え方が変わっていることに気づいたのではないでしょうか。
アイレベルより下側にあった時は箱の上の面が見えていましたが、アイレベルより上になったら今度は下の面が見えるようになりました。
カメラと同じ平面上に置かれた箱やものは、アイレベルより下にあると見下げた絵に、アイレベルより上にあると見上げた絵になります。
つまり、アイレベルより上にある時に下図のような箱は出現しないということです。
この箱はアイレベルより上にありますが、箱の上の面が見える見下げた絵になっています。
※空中に浮いて傾いているならありえますが、箱の持つ消失点は別になります。
ここではアイレベルより上は見上げた絵、下は見下げた絵になるとおぼえておきましょう。
アイレベル、消失点に近い位置の見え方
ここでは箱の位置による見え方の違いを確認しておきましょう。
先ほど縦に積み上げた箱の両端にも同じ透明の箱を積み上げてみます。
このような感じになりました。
箱の天井や床となる横の面はアイレベルに近づくと見える面積が圧縮されているのがわかりますが、箱の壁になる縦の面(赤色の面)も「消失点を通る垂直線」に近づくと同じような圧縮された見え方になっているのがわかるかと思います。
※今回の例は1点透視で観察者(カメラ)の視中心(VC)と消失点が同じところにきています。
アイレベルだけでなく消失点を通る垂直線に近づいても縦のパースが圧縮されて見えるのです。
正しいようで正しくない絵
パースは3次元を表現する便利な方法ですが、ただそのままパースに従って描けばよいという訳ではありません。
パースに従って描いた結果、間違っているということもありえます。
パースに合っていてもおかしく見える例
前項でアイレベルや消失点に近づくと生じるパースの圧縮について説明しましたが、これを知らずにただパースに従って絵を描いているだけだとどんなことが起こるでしょうか?
例えばこちらの絵です。
ベンチを描いたものですが、何かおかしいことに気づくでしょうか。
パースだけで見ると、ちゃんとパース線にも合っていて正しいように見えます。
つまり、透視図法的には間違っているわけではありません。
しかし、この絵はパースの圧縮やベンチの形をよく考えず描かれているので、人が座るイスの座面がとても奥行きがあるように見えてしまいます。これではまるでベッドのようです。
アイレベルに近いのに座面が見えすぎてしまっているのです。
パースは2次元のキャンバスに3次元を擬似的に表現する手段なので、描こうと思えば実物を無視してどのような形でも描けてしまうのです。
しっかりと正しい奥行きを求めてまで描く必要はないですが、デッサン的におかしくない形かどうかを判断して描くようにしましょう。
先ほどのベンチを人が使える形に修正してみるとこんな感じになるでしょうか。
最初のベンチも修正したベンチもパースラインにはしっかり合っていましたが、最初のベンチは「人が使える形か?」「一般的な形になっているか?」「アイレベルに対してこの位置の座面はどう見えるか?」という考えがありませんでした。
パースに合っていても絵としてはおかしいというケースはよくあります。
パースを使う場合は「パースの圧縮」を理解した上で、今描いているものが実際にあるものと比べて正しい形なのかを判断する知識も必要になってくるのです。
ここではパースに従って描けば必ず正解の絵になるとは限らないということをおぼえておいて下さい。
正しいけれどゆがむパース
パースでは描こうと思えば、3次元的におかしなものも描けてしまうという話をしましたので、もうひとつ関係する話をしておきます。
人間(カメラ)には映像をとらえることができる範囲(視円錐)が決まっています。
つまり見ることができる範囲がきまっているのですが、絵では大きなキャンバスさえあれば、どこまでもパースを使って絵が描けてしまいます。
本来は頭や体をそちらに向けなければ見えないものも絵なら描けてしまうのです。
これが思わぬ間違いを引き起こしてしまうことがあります。
1点透視の箱で説明するとこのような感じです。
これらの箱はすべて同じVPを使用して描いた同じサイズの箱です。
※垂直方向のパースも平行と考えて描いています。
真ん中あたりにある箱(青色)は、それほどおかしく見えないと思いますが、端の方にある箱(赤色)は側面が伸びたように見え、ゆがんでいるように見えるかと思います。
実際、この端の方の箱は頭や目をそちらに向けないと人間の視野には入ってこないのですが、絵には視野の限界がないので、そのまま1点透視でひたすら描けてしまうのです。
ちなみに、このように視野の外にある箱を見て描くためには、人間の頭やカメラをそちらにむけたと想定して箱を2点透視で描くことになります。
パースのルールとしては正しいのに、その状態では絶対に見えないものまで絵では描けてしまうことからこういったことが起きてしまいます。
2次元のキャンバスに3次元を表現するパースではこういったゆがみが色んなところで生じます。
1点透視で絵を描く場合は人間やカメラの映像をとらえる範囲をよく意識するようにしましょう。
1点透視の絵の消失点は1つだけ?
最後にこちらの絵についてです。
1点透視の絵ですが、箱が画面内にふたつ置いてあります。
パッと見た感じでは普通の1点透視の絵のように見えるかと思います。
しかし、パース線を引いてみるとこの2つの箱は別々の消失点を持っていることがわかります。
はたして、この絵のようなことは透視図法としてありえるのでしょうか?
答えは「ありえる」です。
1点透視で消失点を1つ決めて絵を描きはじめると、ひたすらその消失点に従って描いていかないといけないように勘違いしがちなのですが、実はそのようなことはありません。
ひとつの絵の中に別の消失点を持つ物体がまざっても問題ないのです。
(※正確に言えば右側の箱のこちら向きの面は平行パースにならず2点透視で描くことになるでしょう)
それどころか1点透視の絵の中に2点透視の物体がまざっていてもOKです。
今回の絵で考えてみましょう。
最初は2つの箱がきちんとならんで置いておいてあったとします。
しかし、そこに誰かがぶつかって片方の箱が少し動いてしまうこともあるでしょう。その場合、箱の消失点も動くのです。
なので、例として出した絵のような状態は普通にありえるのです。
ぶつかり方が大きくて、カメラに対して箱に角度がついてしまうと2点透視で描くことになります。
このように1点透視で描き始めた絵の中に2点透視のものが混ざっても問題はありません。
肝心なのは同じ平面上に置かれている物を描く時は同じEL上に消失点をとるということです。
言いかえればELは消失点が集まって線になったものと言ってもよいかも知れません。
消失点は対象がカメラに対してどう見えるかを考えて決めるとよいでしょう。
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要点まとめ
では、最後に要点をまとめておきます。
パースで絵を描くには単にパース線に従って描いても間違った絵を描いてしまうことがあります。
パースを使いこなすには「こう描くとどうなるか」「この場合はどう描かなくてはならないか」ということについてもしっかり意識して描く必要があります。
ただ、やみくもにパースに従って描けば良いという訳ではないとおぼえておいて下さい。
パースでは「何をしたらいけないか」ということを知っておくことも大切です。
次回は実践編としてパースの知識や技術を活用して、1点透視で部屋を描いてみます。
箱が描ければパース上に色々なものを描けるようになりますが、部屋のような現実にある空間を描いてみることで気づくことがたくさんあるでしょう。
実際に箱を使って部屋を描きながら、様々な注意点についても説明してゆきます。
それでは、また次回。
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