《初心者~初級者向け》
今回は「模写」について考えてみます。
模写とはすでにあるお手本などを描き写す絵の練習方法のひとつです。
お手本を見ながら描くというのは絵を練習する時の基本になります。
絵を描きはじめた頃だと、とりあえず自分の好きなマンガやアニメの絵を模写して練習するということもあるのではないでしょうか。
しかし、マンガやアニメのキャラの模写は効率的な練習方法と言えるでしょうか?
ここに疑問を持つ人も多いようで、大学や専門学校でも質問されることが多いです。
この質問に一言で答えるなら「やり方による」というべきでしょう。
今回は昔から絵の練習方法のひとつとされている「模写」について考えてみます。
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今回の授業内容と難易度
今回の内容です。
マンガやアニメキャラの模写が絵の練習として効果があるのかについて考え、模写の効率的なやり方についても考えてみようと思います。
アニメキャラの模写は意味ある?
マンガやアニメのキャラなどをお手本とした模写の効果については、人によってかなり意見が分かれるところだと思います。
ただ、私の意見としては「単に線をまねして描くだけの模写に意味はない」と考えます。
もちろん、絵は描いているので時間をかければ画力は徐々にあがっていくとは思いますが、効率や効果の面では無駄が多いと言えるでしょう。
私も絵を描きはじめたばかりの頃に、練習として同じマンガの絵の模写を続けたことがありますが、絵を描く画力が上がったという実感はほとんどありませんでした。
おそらく、それは絵を似せることだけに意識を向けて、描いてるパーツひとつひとつがどういった形なのかを考えずに描いていたためだと思います。
私は模写を絵の練習としてとり入れるには時期が早すぎたのです。
さらに単にマンガやアニメの模写をするだけでは、その作品特有のキャラのデフォルメなどの変な癖がついてしまうというデメリットもあります。
こういった癖は他の絵を描く時の応用を妨げますし、一度絵の描き方として体に染みついてしまうと取るのにかなり苦労します。
絵の練習としてはアニメキャラの模写よりも、絵を描くための全般的な知識や技術の習得を優先すべきですし、その方が圧倒的に効率よく画力を伸ばすことができるでしょう。
効率的な模写のやり方
しかし、マンガやアニメキャラの模写がまったく意味がないわけではありません。
どのような模写をはじめるにしても時期とやり方が重要です。
模写をするタイミング
絵を描きはじめたばかりの頃にマンガやアニメのキャラの線を追うだけの模写で練習することはおすすめしません。
マンガやアニメでも過去の著名な画家による絵画でも、模写をするならある程度の人体比率や解剖学に関する基礎知識を身につけてからおこなうべきでしょう。
やみくもに線だけをトレースするような模写はほとんど意味がありません。
模写ではお手本を描いた作者がどのように考えてその線を引いたのかを考えることが大切です。
そこを理解するためには人体解剖学や人体比率、パース、重心などといった絵を描くための基礎的な知識を身につけておく必要があります。
そうすれば、たとえデフォルメされたアニメのキャラであっても描線を単なる線として見ることがなくなり、立体的な表現としてその描線が選択された理由などを客観的に見ることができるでしょう。
正しい美術的知識のフィルタを通してキャラを見ることで変な癖もつきにくいです。
まずは基本となる人体比率や解剖学を勉強してから模写をはじめましょう。
絵を描くために必要な知識を習得してからであれば、マンガやアニメのキャラの模写であっても絵の練習として意味のある効果をもたらしてくれるでしょう。
▼人体の基礎が学べるおすすめ参考書
模写のやり方
模写をする時も、しっかりとラフから描きはじめましょう。
線だけを追わずに形を立体的にとらえることが重要です。
描こうとしているキャラの形を球や円柱などの単純な形で描いてみましょう。
そして…、最終的にキャラは似なくてもOKです。
似せることよりも描いている部分の構造を理解することに集中しましょう。
さらになぜその作者はこの線を描いたのかについて考えてみましょう。
きれいに描く必要もないです。
どんどん下描きの線を残して模写していきましょう。
これをあとから見れば自分がどのように絵を描いたのかを復習することができます。
似せたり、きれいに描いたりというのはどうでもよいことです。
それよりもその絵がどのように描かれたのかをじっくり考えながら模写してみましょう。
模写向きのおすすめ参考書3選
実際に私が持っているものの中から模写におすすめの本を3冊ほど紹介しておきます。
人体の基礎を学んでからであれば、模写の対象は好きなマンガやアニメのキャラでもよいのですが、せっかく模写をするなら描線がきれいに清書されてしまったものより、その絵が描かれたプロセスが見えるものがよいでしょう。
つまり、ラフの線が残っているお手本です。
以下で紹介する3冊にはラフの線が残ったお手本が載っています。
『モルフォ人体デッサン』 M・ローリセラ著 グラフィック社刊
まず絵の参考書としては定番のミシェル・ローリセラの『モルフォ人体デッサン』です。
この本の優れているところは人間の皮を一枚剥いで描いてくれているところです。
模写をしながら解剖学的な知識まで身につけることができます。
そして、載っている絵のサンプル数がとても多いので模写し放題です。
この本では人間の各パーツを余すことなく模写して勉強することができます。
ただし、解剖学的な解説は少ないので脇に美術解剖図も用意しておくとよいでしょう。
値段も新品で2000円前後と美術の参考書としてはお手頃な価格でコスパもよいです。
もう少し値段の安い人体の各部位にしぼったミニシリーズというのもあります。
こちらのミニシリーズのお値段は1400~1500円ほど。
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『The Art of Tangled』 Jeff Kurtti著 Chronicle Books刊
タイトルを英語で書いていますが、『塔の上のラプンツェル』のことです。
英語になっているのは、私が持っているものが英語版だからです。
私がこの本を買った時には、まだ日本語版が出てなかったというそれだけの理由です。
模写をするために買ったので英語か日本語かはあまり関係ありませんでした。
今は日本語版も出ています。内容はおそらく英語版と同じです。
この本には優れたディズニーアニメーターたちの習作がたくさん載っていて模写に最適です。
ラフの線も残っているので、アニメーターがそのキャラクターを描いて作っていく過程を読み解くことができます。
ぜひラフの線から模写してみましょう。
私が持っている本が『ラプンツェル』のものなので、こちらを紹介していますが、『The art of ~』のシリーズは他にも色々出ています。
ディズニー作品の習作やデッサンが載っているものなら同じように使うことができると思います。
『シャルル・バルグのドローイングコース』 ボーンデジタル刊
これも模写用として買った一冊です。
この本は模写による美術教育を目的としたもので、内容も講義形式になっています。
しかし、本格的に美術を学ぶ画学生向けに作られた本なので内容はかなり高度で、さらに価格も6000円以上と高額ですので、意欲とお金に余裕があれば選択肢に含めるくらいで良いでしょう。
本書の手引きに従って順番に課題に取り組むことは有効な練習方法だと思いますが、かなりハードルが高いので継続する強い意志が必要となるでしょう。
模写用のお手本としては面白いものがたくさん掲載されていますので、気になったものがあれば模写してみるという使い方でもよいと思います。
Amazonのサイトでサンプルを見ることができるので興味があれば見てみて下さい。
その他おすすめのお手本
上記の本以外のおすすめのお手本も紹介しておきます。
・実写映画の模写
模写というよりはクロッキーに近いかも知れませんが、ほぼ無料で練習できます。
テレビで放送している映画を録画しておいて、気になる人のポーズや画面のレイアウトがあれば模写してみると良いでしょう。
実写映画なので描く対象も立体的な人間を描くことができます。
少しお金に余裕があるならDVDを買ってみても良いでしょう。
練習用の実写映画として黒澤明監督のモノクロ作品をおすすめしておきます。
モノクロ作品は陰影が明確で形がとらえやすいところがおすすめのポイントです。
黒澤作品はカメラワークやレイアウトの勉強にもなります。
もちろんサブスクやレンタルでもOKです。
・フィギュアの模写
マンガやアニメキャラの模写をしたいという場合はフィギュアもおすすめです。
この場合は何かの商品のおまけでついてきたものやガチャガチャから出てきたものでなく、安いもので良いのでしっかりした造型のものを選びましょう。
形がしっかりしていれば、デフォルメされたキャラでもOKです。
自分の好きなキャラを選んで描いてみましょう。
・著名な画家が描いた習作など
これは少し集めるのが難しいかも知れないお手本ですが、例えばハンス・ホルバインやエゴン・シーレなどの画家の習作は今のマンガやアニメを描く時の練習にも適したお手本だと思います。
ネット上を少し探してみましたが、あまり良いものはありませんでした。
大学や画塾の先生なら模写用にこういった画家の習作を持っているかも知れません。
・マンガの模写
模写向きのマンガも一作紹介しておきます。
井上雄彦先生の『バガボンド』です。
井上先生の絵は人の骨格や筋肉がしっかりと見える優れたお手本です。
ある有名なアニメ会社の入社課題だったか、研修課題だったか忘れましたが、学生が『バガボンド』の模写に取り組んでいたこともあります。
かなりたくさんの巻数が出ていますが、模写用ならすべてそろえる必要はありません。
井上先生には申し訳ないですが、安い古本でもOKです。
物語もすごく面白く、迫力もあるので興味があればそろえてみても良いでしょう。
ただし、まだお話は完結していません。※2024年5月時点
手に入れやすいのもおすすめのポイントです。
・その辺にあるもの
もはや模写とは言えませんが、お金を掛けない効果的な練習です。
身近にあるカップや箱、家族や友人、自分の手などを観察しながら描いてみましょう。
箱やペットボトルなどを描く時はパッケージデザインなどは無視して、そのものの形だけをとらえて描いていくだけで大丈夫です。
要点まとめ
それでは、要点をまとめです。
ただ単にマンガやアニメの線をまねるだけの模写はほとんど意味はありません。
模写をするならマンガでもアニメでも、その構造を考えながら描くことが重要です。
今回紹介した本はどれも模写をするのにおすすめですが、価格と内容面を考えたコストパフォーマンスの点では『モルフォ人体デッサン』が一番良いでしょう。
あと、進学や就職用のポートフォリオにマンガやアニメの模写を入れるのはおすすめできません。
過去に私が評価に参加した試験などでも、提出されたポートフォリオの中がアニメキャラの模写や2次創作で埋め尽くされているようなものがありました。
しかし、これではその人がどのような絵が描けるのか正確にわかりません。
模写がどんなに上手くても元は他人の絵です。
そういったポートフォリオの評価は当然低くなってしまいます。
ポートフォリオに入れるのであれば、自分の基礎画力がしっかり見てもらえるようなデッサンやクロッキーをより多く入れておくべきでしょう。
模写からでは、あなたの実力を十分に理解することができないのです。
※進学・就職用ポートフォリオの作成についてはまた別の回に解説します。
今回は以上です。
それでは、また次回。
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