《超初心者~初心者向け》
絵を描く時に、まず最初に引くべき1本目の線は何が良いのでしょうか?
初心者の頃は最初の描き始めで悩むことも多いと思います。
私は絵を描くことを仕事にしていますが、特に美術系の大学や専門学校を出たわけではありません。
それどころか、デッサンすらまともにやったことがなく、美術教育を受けたのはせいぜい高校の美術の授業までです。
つまり、全くの素人から絵の仕事を始めたわけです。
そういった中で25年以上も、絵を描く仕事をして来た経験から見えてきた初心者向けの絵のとらえ方、描き方といったものがいくつかあります。
今回は、絵の経験ゼロから始めて、なんとか絵を描いて食べられる程度になった実体験を通して、絵を描き始めたばかりの時に気をつける点と、最初に意識して描くと良い点について解説します。
▼前回の記事はこちら
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今回の記事の内容
今回の内容です。
超初心者が初心者、初級者とレベルをあげていくために必要となる考え方や、実際に絵を描いていく時に何を見て、どこから描いていくべきかについて解説します。
初心者でまったく何から始めればよいかわからない、という人は参考にしてみて下さい。
知っておくべき2つの考え方
まず絵を描く上で、初心者の人が知っておいた方が良いポイントが2つほどあります。
それは「最初は描けなくて当たり前と理解する」ということと「いきなり難しいものを描こうとしない」という2つです。
これを了解できているか、いないかでは、絵を描いて学んでいく時の心の余裕が変わってきますのでとても大切です。
どういうことか詳しく解説していきます。
「描けなくて当たり前」と理解する
絵を描く手が止まる原因のひとつが「上手く描けない」ということでしょう。
初心者が上手く描けないのは当たり前のことです。
しかし、意外とこれを理解して受け入れるのは大変なことです。
誰しも「自分にはすごい絵の才能があるのではないか」と思いがちです。
でも、残念ながらそんなことはありません。
99%以上の人は、いきなり思うような絵は描けません。
絵が上手くなる第一歩は絵が下手な自分と向き合うことです。
「上手くないから恥ずかしい」という思いはいったん脇に置いて、「描けなくて当たり前!」と割り切って、下手でもたくさん描いていくことです。
みんな最初は下手なのです。
たくさん描いて、失敗して、そこから学んでいきましょう。
描くもののレベルを高くしない
次に、いきなりすごい絵を描こうとしないことです。
世の中には美しいイラストや魅力的なマンガなどがたくさんあります。
絵を描くなら、やはりそういったものを描きたくなってしまうのは当然です。
こういった気持ちは絵を描き始める動機付けとしては良いのですが、絵を描いたことがない人がクリアするにはハードルが高すぎる場合があります。
RPGでレベル1の勇者がこん棒と布の服でラスボスに挑むようなものです。
いきなり高すぎる位置に設定したハードルを越えられる初心者なんてほとんどいません。
せっかく絵を描き始めても思ったように描けず、すぐに嫌になってしまうでしょう。
大切なのは、自分が越えられる高さのハードルを順番に越えていくことです。
これは「絵が描けた」という成功体験を積み上げることでもあります。
描けた成功体験があると、また描きたくなるでしょう。
RPGでスライムを何匹か倒して、最初にレベルが上がった時のことを思い出してみて下さい。
「強くなった!もっとこのゲームを続けたい!」と思ったのではないでしょうか。
絵を描くというのもこれに似たところがあります。
「みんなに褒めてもらえるすごい絵を描きたい!ワイはイラスト界の伝説の勇者になるんや!」という野望はいったん忘れて、まずはスライムを倒すところから始めましょう。
これを繰り返すことで絵を描く力は確実に伸びていくでしょう。
絵を描くことにおいて何がスライムなのかについては、このあとで詳しく解説します。
初心者が描くべきもの
2つの心がまえを知った上で、次に何から絵を描き始めたらよいのかについてです。
「スライムを倒すのはわかったけど…何がスライムなの?」という疑問があることでしょう。
実はこの時に描く対象は何でも良いのですが、ポイントはこの描く対象のレベルをスライムくらいまで弱くするということです。
これは「情報の単純化」と言うこともできるでしょう。
これを実践する時、特に練習をする時には、お手本を用意しましょう。
実物の他、写真やマンガの1コマ、画家の習作などでも良いです。
「これ描いてみたい」と思えるお手本を選びましょう。
今回は、こちらのお手本を用意しました。
象さんの写真です。
「象なんて難しそう…」と思ったかもしれませんが、単純化(スライム化)すれば意外と簡単です。
絵を描いた経験が少ないと、まず象の輪郭線を見ながらまねして描いていくというやり方になってしまうかと思います。
ただ、それだと初心者の技量に合わない高いハードルを飛ぶことになります。
いきなり中ボスクラスに挑むようなものです。
そこで使うのが「情報の単純化」です。
単純化によって、中ボスをスライムにしてしまうわけです。
お手本の情報を単純化する
「絵を描く」というと「線を描くこと」と思ってしまいがちですが、実はいきなり線を描き始めるのは自分でハードルを上げてしまっているようなものです。
さらには単に線をなぞるだけの練習では、ものを立体的に描く力も身につきにくくなります。
最初は線を引くことは忘れて、お手本を単純な形で見ることに集中しましょう。
絵を描くことは線を描くことではなく、形を描くことです。
では、もう一度さっきの象の写真を見てみましょう。
今回は背景は描かずに象だけを描くこととしますが、象だけでもとても複雑です。
耳や鼻、牙など色々なパーツがついていて、脚は4本もあります。
また、体の色んなところに凹凸があり、シワやら影もたくさんついています。
つまり、この象は絵を描くには情報が多すぎるのです。
この象を描く時、まずは情報を極限まで減らして単純化してみましょう。
見えてるものはついつい描いてしまいたくなりますが、これは失敗のもとです。
物を単純化して見ることができると、絵は格段に描きやすくなります。
補助線を活用しよう
象を単純化して描く前に準備しておいた方が良いものがあります。
それは補助線(ガイドライン)を引いておくことです。
絵を描く上で補助線はとても大切です。
補助線を引くことで、絵の間違いに気づいて自分で修正できる目が育ちます。
今回は元のお手本の写真のサイズと紙(キャンバス)のサイズを合わせた上で補助線を引きます。
まず写真の方に補助線を引きます。
あまりたくさんの補助線を引くとゴチャゴチャするのでほどほどに。
おおよその形状を描いていく位置がわかる程度で大丈夫です。
写真の方に補助線が引けたら、紙の方にも同じように補助線を引きます。
写真と紙の両方に補助線が引けたら、お手本の中で一番目立つパーツを単純な形で描いてみましょう。
こんな感じに描いてみました。
なんだかわからないかと思いますが、これは象さんの胴体です。
頭も鼻も脚もすべて取り除いて、写真の情報を極限まで単純化したものです。
この胴体を描く時は補助線の位置をよく見ながら描きましょう。
完全に一致させる必要はないですが、だいたいの位置は合わせておきましょう。
初心者が絵を描くには、この世界にあるものが持つ情報量は多すぎます。
まずは単純化し、情報を極力減らした状態で形をとらえることに集中しましょう。
描く対象の情報量を減らし単純化して描いたものを「ラフ(下描き)」と言います。
絵の練習はこのラフを描くところから始まります。
さて、紙にゆがんだ楕円球と補助線を描いただけですが、今はこれだけでOKです。
「これだけ?」と思うかもしれませんが、必要な補助線を引いて単純化した胴体のパーツをを描くことに成功したので十分です。
これが絵を描く時に最初に描くべきものです。
つまり、これで最初のスライムを倒すことができたというわけです。
これが描けるか描けないかがとても重要です。
多くの人はここに到達できないまま、描くのをやめてしまいます。
ここが超初心者から次の初心者へ効率的にレベルアップする第一歩です。
段階をふんで情報を増やしてゆく
胴体の形がラフで描けたら、もう何匹かスライムを倒してみましょう。
次の段階では、描く形を増やしていきます。
胴体の次に目立つパーツである頭や脚を描き加えてみましょう。
必要なら補助線を少し描き足して描きやすくしてもOKです。
この時も上手く描こうと思わなくて良いです。
上手く描こうと欲を出してしまうと失敗します。
補助線を確認しながら頭、鼻、耳、脚の形だけを追いかけましょう。
細部はまだ描きません。
形だけです。
頭、鼻、耳、脚の形をとらえることに集中しましょう。
頭は縦長の楕円、鼻や脚は円柱、耳は平たい台形のような形状です。
形を単純な形に置き換えて描いていきましょう。
難しければパーツの形状は多少違っていても大丈夫です。
頭、鼻、耳、脚の形を描き加えるとこのような感じになりました。
今は、とにかく単純な形でとらえていくことに慣れていきましょう。
頭や鼻、脚を描き加えると、象としての形が見えるようになってきました。
絵として仕上げていくためには、ここからパーツの形状を整えたり、細部を描き込んでいくことになるのですが、まだそこまではやる必要はありません。
初心者の人が、ラフでここまで描ければ上出来です。
すごく上手くて複雑な絵も実のところ、この単純化された状態から情報量を増やしただけです。
情報をそぎ落として見ることができるようになれば、いわゆる「すごい絵」の元の形が見えるようになってくるでしょう。
「すごい絵」もラフの時点では非常に単純な形の集まりにすぎないのです。
まずは単純な形状でお手本の各パーツをとらえてラフを描くことに慣れていきましょう。
練習方法:単純化から複雑化へ
初心者向けの絵の練習方法ですが、これまでに述べてきたように「形をとらえる」練習をしましょう。
この練習をくり返して、絵を描く時に「ラフ」をとる習慣をつけましょう。
単純化したものをたくさん描く
今回は象でしたが、色々なものを単純化して描いてみましょう。
元絵の形が難しければ、上からトレースしても良い練習になるでしょう。
ポイントは、この時に細部まで描き進めてしまわないことです。
これは次の段階の作業です。
しっかりと形がとらえられるようになってからで大丈夫です。
少しずつ情報量を増やしていく
ある程度、形をとることに慣れてきたら、徐々に情報を増やしていきましょう。
この時にいきなり増やし過ぎないように注意しましょう。
先ほどの象なら目や牙、目立つ頭の凹凸などを描き加える感じです。
これも無難に描けるようになったら、さらに細かい情報も描いていきます。
少しずつハードルの高さを上げて、成功を積み重ねていきましょう。
▼情報を段階的に増やしていく手順(動画)
ものの質感を思い浮かべて線を引く
だんだんと絵の情報量を増やしていく時に意識すると良いことがあります。
それは描いているものの質感を考えながら描くことです。
布を描いている時はやわらかい布の質感を、硬い金属ならその硬さを思い浮かべましょう。
不思議なことに、質感を意識して描くと描線にその質感が反映されてきます。
何も考えずに描いた線はただの線です。
何かを描く時は質感を思い浮かべて質感を表現できるよう意識してみましょう。
最初はうまくいかないと思いますが、意識し続けるだけで描けるようになってきます。
これは初心者の練習のころから意識しておくと良いでしょう。
絵の情報量の増やし方
最後に絵の情報をどう増やしていくか…についてですが。
これは知識(情報)をインプットすることが重要です。
今回は象を描きましたが、実際に描いてみると今まで知らなかった象の特徴に気付くことがあったかと思います。
描くことは最高の観察です。
たくさん描くことでインプットがどんどん増えていきます。
さらにより効率的に「絵を描く知識」を増やす方法として、参考書を持つことがおすすめです。
絵を描き始めた頃、私は人間も満足に描ける状態ではなかったので参考書を買いにいきました。
とにかく人体について何も知らなかったので、その知識が身につきそうな本として買ったのが、こちらの視覚デザイン研究所の『人体デッサン』でした。
私はこの本から絵を描くために必要な色々なことを学ぶことができました。
たくさんある参考書の中で何を買おうか迷っているなら、一度チェックしてもらっても良いでしょう。
この『人体デッサン』を含めたおすすめ参考書については以下の記事を参照してみて下さい。
絵を描くのに役立つ本を厳選しておすすめしています。
要点まとめ
最後に今回の要点3つをまとめておきます。
すぐに上手い絵を描くことは難しいものです。
絵が描きたくて描き始めたのに思うように描けないことは苦しいことです。
しかし、焦りは禁物です。
ゆっくりと段階を踏んで画力を上げていきましょう。
まずは「描けなくて当たり前」という意識を持って、ものの形を単純化して見る力と形をとらえる力を身につけていきましょう。
そこから、少しずつ情報を増やしていった先に、みなさんの理想とする「上手い絵」が存在します。
次回からはちょっと難しい人体の描き方についてです。
例えば、腕を上げてバンザイした人物を描くことは意外と難しいものです。
バンザイを描くには人体の肩まわりの骨格や筋肉がどう動くかということを知る必要があります。
人体の構造をふまえて、バンザイした人の描き方を知ってみましょう。
それでは、また次回。
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