《初級者~中級者向け》
今回は「2点透視図法」と「分割&増殖」を使って街並みの描き方について解説します。
実用面においてパースに関する知識は組み合わせて使うことが多く、2点透視の箱と分割&増殖を使って描く街並みなどはその代表例となります。
本記事を読むと、実例を通してパースの知識を組み合わせながら背景を描く方法が学べます。
※2点透視での箱の描き方や分割&増殖については下記の記事で詳しく解説しています。
▼2点透視を使った箱の描き方はこちら
▼「分割の基礎編」はこちらから
▼3等分割以上の分割については「分割 応用編」
▼ユニットの「増殖」についてはこちら
※本ブログの記事には広告が表示されます。
今回の授業内容と難易度
それでは、今回の内容です。
実践的な内容を通してパースの知識の活用について解説します。
街並みのベースを2点透視の箱で作り、分割増殖を使って細部を描いていくという背景の描き方です。
どういったところでどのようなパースの知識を使えばよいのかを知っておくと便利です。
- 難易度 3:★★★☆☆
- 重要度 4:★★★★☆
- 画力向上度 4:★★★★☆
実際、パースに関する知識はいくつか組み合わせながら描くことが多いです。
難しく思えるかも知れませんが、個々の知識をどこで使うのかを知っていれば、それほど難しいことではありません。
実例を通して描きながら学んでみましょう。
描く街並みを決めて資料を集める
どんな街並みを描くのか?
まずは何を描くのかを決めましょう。
「街並みを描く」ということは決めていますが、繁華街を描くのか住宅街を描くのか、日本の街なのか、ヨーロッパの街並みか…他にも決めておくことはたくさんあります。
必ず先に何を描くのかを決めて、対象を調べてから描きはじめる癖をつけておきましょう。
なんとなく描きはじめてしまうと、描く対象があいまいになりがちです。
今回は日本の商店街を描くことにします。
低層(2~3階)と中層(4~5階)の建物がいくつかならんでいる感じの街並みです。
細かい設定や条件は箇条書きにして整理しておいてもよいでしょう。
◆描く街並み
- 日本の地方都市の駅前にあるような小さな商店街
- 比較的大きな道路に面していて歩道がある
- 歩道上には街灯がある
- 2階建てから4階建てくらいの建物がならんでいる
- 個人商店の他、中層のビルには病院や学習塾などが入っている
- アーケードはない
- 一番手前の商店は角地に位置する(正面と側面に入口がある)
文章で簡単に書くだけでも描く街並みのイメージが固まってきます。
さらには描く時の資料集めもやりやすくなるでしょう。
街について調べる
日本に住んでいると商店街などは見慣れた風景ですが、よく知っているから…といきなり描きはじめてしまうのは良い方法とは言えません。
私たちの頭の中に入っている情報は、あいまいで間違っていることも多いです。
何かを描く時は必ず色々な資料を集め、描く対象についてよく調べましょう。
実物や写真から正しい情報を集めるのです。
これは絵を描く力を伸ばす上でも、とても大切な習慣のひとつです。
何となく描くのではなく、ちゃんと調べて頭の中のインプットを増やしていきましょう。
描く対象については実際に見に行くのが一番よいのですが、それはなかなか難しいと思うので、その場合はネットで調べてみましょう。
写真などの他、Googleのストリートビューもおすすめです。
ネット検索で出てきた画像をそのまま参考として使用するのは著作権の面からリスクがあります。
マンガなどで商用利用する場合は、自分で撮影した写真を使うか、Pixabayなどの著作権フリーの画像を共有しているサイトなどで参考となる画像を探してみるのも良いでしょう。
高品質なロイヤリティフリーの画像やストック素材 – Pixabay ※外部サイトにリンクします
その他、背景を描くための写真素材集なども出版されています。
こういった素材集は施設やシチュエーションごとに色々なものが出ていますので、描く機会が多いものについては何冊か用意しておいても良いでしょう。
上記のマール社の背景カタログは長年出版され続けている定番のシリーズで、この10年くらいで新しいバージョンに更新されているようです。
ペラペラとページをめくって見ているだけでも、意外な気付きがあって絵を描く時のインプットを増やしていくのに役立ちます。
実際に描きはじめる前には色々な資料に目を通してインスピレーションを得ておきましょう。
自分の頭の中の情報だけで描こうとするのは失敗のもとです。
実際には、いくつかの資料の情報を組み合わせながら描いていきます。
2点透視で最初のユニットを決める
準備ができたら描いていきます。
街並みをつくる建物は2点透視の箱でラフを取ります。
2点透視で描いていくのでアイレベル(EL)を引いたら消失点(VP)を2つ決めます。
今回は左の消失点(VP1)は画面内に、右の消失点(VP2)は画面外に取ります。
例図では Clip Studio の「パース定規」機能を使用しています。
ELとVPが決まったら、基準となる箱を1つ描きます。
箱は2点透視の箱の描き方で解説した手順で描いていきます。
最初の箱は自由に描いてOKですが、何階建ての建物で何mくらいあるのかを想定しておきましょう。
まだ細部は描きませんが、これを決めておかないと基準としての役目が果たせません。
今回の基準となる箱は2階建ての建物を想定して、高さは6mとしておきます。
箱で描く街並みの基礎
基準の箱が描けたら、これ以外にいくつか箱を増やします。
ただ、この時にパースの「分割」や「増殖」は使いません。
すべて同じ間口の広さの建物であれば「増殖」を使ってもいいのですが、今回は色々な建物が混ざった商店街の雰囲気を出したいので、建物の間口の幅はそろえない方がよいでしょう。
極端に間口がせまくなったり、広くなったしないように気をつけて建物となる箱を描いていきます。
今回は、全部で5つほど描いておきましょう。
「分割&増殖」を使って建物の細部を描く
建物のベースになる箱ができたら、細部を描いていきます。
基準の箱を建物にする
一番手前の基準ユニットとなる箱を建物にしていきます。
まず、最初に入口を決めましょう。
角地にあるので、見えている2つの面に入口をつけてることにします。
2つの入口はそれぞれの面の中央に来るように描きます。
建物の面のちょうど真ん中に入口をつける場合は「分割」を使います。
見えている両面に対角線を引き、真ん中の位置を割り出しましょう。
ここが入口の目安位置となります。
入口の高さは建物のサイズから求めます。
この建物は2階建てで6mくらいという設定ですので、入口の高さを2m前後と考えて高さを3分割して考えます。
手前の縦の辺を3分割して、パース線から入口ドアの高さの想定位置を求めておきます。
これはあくまで目安なので、建物のデザインから多少位置を調整してもOKです。
高さが決まったら、入口ドアの横幅(左右幅)も決めておきましょう。
先ほど描いた真ん中位置で左右に開くドアにしようと思うので、「増殖」を用います。
両開きドアの左側の扉(左ユニット)を描いたら、対角線を引いて右側の扉を求めましょう。
入口ドアの幅が広くならないように注意して調整しましょう。
目安は縦の長さの半分弱くらいです。
ドアの位置が決まったら、さらに細部を描きこんでいきます。
今回、この建物は田舎の雑貨屋さんという感じで描いていきます。
色々な日用品や生活雑貨を取り扱っている個人商店といった感じです。
色々な資料を見ながら、細部を描いていきましょう。
店の内部がわかるように入口以外の壁面も基本的にはガラス張りとしておきます。
ただし、すべてをガラスとしないで適度に柱なども入れておきましょう。
入口の上には、店舗の看板も描いておきます。
さらに店の前にワゴンなども出しておきましょう。
このワゴンも、もちろん2点透視の箱から描いていきます。
田舎の個人商店なのでコンビニのような洗練された感じでなく、雑多な雰囲気が出ると良いでしょう。
1階部分が描けたら、2階部分も描いていきます。
この時に注意するのは各階のフロアがどれくらいの高さを持つのかという点です。
箱のどこが2階の床の位置になるのかをしっかりと考えておきましょう。
この床の位置を正しく決めておかないと、2階の窓の位置などがおかしくなってしまいます。
人間が使う建物だということを常に意識して描きましょう。
忘れそうなら、参考となる人間をどこかに描いておいても良いでしょう。
2階は、この店を経営する家族の住居スペースと考えます。
1階が店舗、2階が住居という個人商店によくある感じの建物です。
人が生活してる建物なので窓の位置やサイズに気をつけて描きましょう。
細部が描けたら、最初の建物はとりあえず完成です。
つづいて、他の建物も描いていきます。
それぞれの箱のサイズに合った店舗にしていきましょう。
基本的な描き方は、最初に雑貨店を描いた時と同じです。
すぐ右隣の箱は最初の雑貨店と同じようなサイズなので2階建ての中華料理屋とします。
基本的な描き方は雑貨屋の時と同じです。
特徴的な目立つ看板やショーケースなどを配置して中華料理店の特徴を出しましょう。
これも2階は住居としておきましょう。
そのさらに右隣の箱は、これまでの2つより少し縦に長い感じです。
これは色々なオフィスや店舗が入った3階建ての雑居ビルと考えます。
1階はドラッグストア、2階は整骨院、3階は税理士事務所が入っていると考えます。
1階の店舗の他、2階や3階のフロアにどのように上がるのかも考えておきましょう。
ドラッグストアの中を通って2階に上がるのは不便なので、2階や3階に上がるための階段がある入口を別につけておきます。
ここまで描けたら、残った他の2つの箱も商店街の店舗にしていきましょう。
すぐ右隣は1階が喫茶店の2階建てのビル、最後の一番大きな箱は4階建ての雑居ビルと考えて、コンビニや学習塾などが入っている感じにしておきます。
これで箱はすべて店舗やビルになりました。
ビルの装飾や路上のものなど雰囲気を描き加える
店舗が描けたら、その周りのものも描いていきましょう。
歩道と車道を描く
設定では、この商店街は少し大き目の道路に面し、歩道がついているということなので、そのように描いていきます。
道路や歩道を描く時も消失点から引いたパース線に従います。
この絵では、車道はすべて見えませんが、2車線ある道路で幅は6mくらいと考えます。
歩道の幅は約2mくらいとしておきます。
車道に対して、ほんの少しだけ歩道部分が高くなっている感じで描いておきます。
街灯を描く
車道と歩道が描けたら、街灯を描き加えます。
歩道の上に配置され、車道側を向いているものとします。
まず、手前と一番奥の2本を描きます。
街灯のデザインもいくつか参考を調べてから描くと良いでしょう。
街灯が2本描けたら、真ん中にもう1本追加してみましょう。
この時には、パースの「分割」を使って位置を求めます。
奥に増やしたい時は「増殖」を使います。
その他の街の雰囲気を出すものを描く
これでほぼ完成なのですが、さらに商店街の雰囲気を作り出すものも描いておくとよいでしょう。
どんなものを置くと雰囲気が出せるのかは、写真や参考資料を観察しましょう。
電柱や電線の他に、看板やのぼり旗、店舗の前の大きなゴミ箱などを描き足すことで生活感を出していきましょう。
▼動画バージョンはこちらから
▼パースの学習におすすめの参考書はこちらから▼
要点まとめ
では、今回の要点まとめです。
今回で「簡単パース応用講座」は終了です。
主に「2点透視図法」と「分割&増殖」について解説してきましたが、どちらもパースで絵を描く際にはとても実用的な知識となりますので、少しずつでも繰り返し使ってみてしっかりと習得しておくとよいでしょう。
次回は、「絵はどこから描けばよいか?」について考えてみます。
白い紙を目の前にして、いったいどこから描きはじめたらよいかわからない…、というのは絵の描きはじめたばかりの頃によくある悩みかと思います。
まず引くべき最初の線は何なのかについて解説します。
それでは、また次回。
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